Easy + Nice レーベルのblog

アンビエント・ダブテクノなどを作る電子音楽家・Wakiによるブログ。 元々は運営している音楽レーベル「Easy + Nice」の情報発信のために立ち上げたものだが、最近は音楽制作全般や日記的なもの、哲学的なものが中心になってきている。

2018年07月

日本酒を世界に輸出・紹介しているオランダ人、ディック・ステゲウェルンス氏の私邸で行われた、「ディック氏一時帰国の会」というのに行ってきました。

ディック氏の家は、京都の中心部から車で北の方に1時間半ほど行った、京北地方の山の中で、桂川の上流にほど近い、風光明媚な場所にありました。

「こんな綺麗なところに住んでてうらやましいね」

と私が言うと、ディック氏は

「これはどこにでもある、ふつうの日本の田舎の暮らしだよ」

と言いました。

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当日は、ディック氏の古い友人であるキーボーディスト・鈴木潤氏のソロライブ、鈴木潤・片岡祐介氏の2人ユニット「カネタタキ」、また音頭バンド「サンポーヨシ」による盆踊り、ジャズピアニスト・芦津直人氏によるソロライブなどがありました。

中でも今回、個人的に出色だと思ったのは、キーボードと木琴・鉄琴による極小音のユニット、「カネタタキ」のライブでした。

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(小津安二郎の映画っぽい)


京北・黒田村の自然の山々を背景に、縁台で行われた演奏でしたが、借景と虫の声などの環境音が相まって、非常に素晴らしい雰囲気でした。

私はカネタタキの演奏を今まで何度か見てきていますが、今回は特に良かったと思います。

今までのライブは何となく、少し観念的というか、楽譜的というか、ちょっとデジタルな雰囲気が残っていて、「気楽に楽しむ」というよりも、ちょっとアタマで理解しなくてはならないようなところがあったと思いますが、今回の演奏は、もっとずっと有機的で、音楽的な豊かさがあり、すーっと耳に入ってきました。

動画アリ↓





夜中には私も調子に乗って、片岡・鈴木両氏とアンビエントやテクノ的な演奏とかやりました。


そして、ついでにというか、個人的な「実験」というほどでもないのですが、皆さんが家から出払っていた時間帯に、いつも自宅やその近辺でやっている自分の「パソコンでの即興演奏」の録音を、自然あふれるこの環境でやったらどうなるのか、試してみました。

虫の声とか、自然の環境音を聞きながら演奏するのですが、マイクを持っていってなかったので、あくまでも録れているのはパソコン内部の音をラインで録ったものだけです。


それで、都会(というか自分の家)に戻ってきて、録音されたものを聴きなおしてみてどう感じるのか?

結果から言うと、非常に意外だったのですが、演奏のダイナミクス(音量的な変化)がものすごくあって、家で聴くためには、ボリュームカーブをかなり書き直さないと、落ち着いて聴けない感じになっていました。

録音は自然の環境音が入ってないので、これを含めて録っていたら、また随分違った感じになったのではないかと思われます。

しかし、逆に考えると、この録れなかった自然の環境音が、実はものすごくダイナミクスに満ちていたので、自分の演奏もそれに合わせてダイナミクスを変えていたのではないか?ということになります。

自分の家がそんなに静かだとは思いませんが、いわゆる環境音的な成分がすべて、エアコンの室外機の音だったり、換気扇の音だったりと、比較的音量変化が少ない持続音なのだ、ということに思い当たりました。


そういうわけで、田舎の人がときどき言う「田舎はうるさい」という意味が少し分かったような気がします。

つまり、自然の多い地域は動物や鳥・虫など、環境音のダイナミクスが意外と大きく、変化に富んでいる、ということです。

そう考えると、自分が音楽を作るときには、やはり都会か郊外のベッドルーム的な、比較的静かで音の変化の少ない場所で聴くことを、無意識に想定しているんだな、というふうに感じました。



ベッドルームで聴こう。kaetsu takahashiの超短編集。

このブログでも何回か登場している、友人で音楽家の片岡祐介氏(参考)が、最近東大教授の安冨歩氏とつるんで、何やらいろいろと愉快なことをやっているのは知っていたのだが、

「安冨さんが市長選に出るので応援する」

と言い出したときには、さすがに私も少々驚いた。

「え??政治か~…」

というのが正直な感想。

安冨さんと言えば、女性装を始める前から、名前は知っていて、「抑圧された人間性の回復」について真剣に研究している学者さんとして、尊敬していた。

その後、二人が「クラシックの名曲を読み解く講座」を開いていたとき、高槻まで一度見に行ったことがある。

安冨さんにお会いしたのはこのときが最初だった。

安冨さんは女性の格好をしてはいたが、非常に自然な感じの態度で、ツイッターやなんかでの発言から、もっと厳しい論客みたいな人を想像していた私は、少々肩透かしを食らった感じがした。


そして今回、東松山市長選が始まる直前、私はたまたま用事があって東京に滞在していた。

そこで片岡さんから「東松山にぜひ遊びに来てください。」と言われ、告知前に一回、それから選挙活動中にもう一度、東松山市に遊びに行ったのだった。


一度目は、告示前なので正確に言うと選挙活動ではないのだが、集まっていたのは基本安冨さんを応援する人たちで、片岡さんは、料理人の柾さんという人と、「新しい炊飯のやり方を教えながら音楽を奏でる」という奇妙なイベントをカフェのようなところでやっていた。私もこのとき電子音で演奏に参加した。

このイベントはネット上などで告知されていたにも関わらず、来場者は殆ど関係者のみで、

「こんなに素晴らしいイベントなのに、なぜ人は来ないのだ!」

と安冨さんは吠えていたが、私は客の来ないイベントを何度も経験していたので(笑)慣れきっていて、「まあこんなもんだろ…」と思った。

そしてこのイベントのあと、私は安冨陣営と一緒に炎天下の東松山市を練り歩いた。

この行脚は非常にユルいもので、即興的で無計画なものだった。歩きながら、ときおり片岡さんを中心にみんなで楽器を演奏したり、公園で子供たちに話しかけたりしていた。そしてこれが意外に長距離で長時間だったため、体力のない私は炎天下でたちまち疲れた。


この「ユルい行脚」は、実際のところ選挙活動中にも引き継がれ、数日後私が再び東松山に訪れたときにも、基本的には同じことが繰り返された。

ただ、私が二度目に訪れたこのとき、一度目と大きく違っていたのは、「馬」の存在である。

選挙期間中、何と安冨さんは「馬」と一緒に歩いていたのだ。

郊外のベッドタウンを馬が歩いている様子のインパクトは半端なくて、たちまち子供たちが寄ってきた。彼らははしゃいで、ずいぶん長いこと馬と一緒に歩いていた。


おそらく、彼らが大きく育ったとき、「ねえ、たしか僕たちが子供の頃、馬が来たことがあったよね?あれって何だったんだろう?」って思い出すんじゃないかな、などと私は想像した。


あと私は今回、初めて「選挙カー」というものに乗った。

ラウドスピーカにいつもの電子楽器をつないで、アナウンスのバックで自分の曲や即興のアンビエントをかけたりした。(安冨さんには「不気味な音楽」と言われたがww)

そして夜には、駅前で選挙カーのラウドスピーカを使って、テクノのライブをやった。周りで片岡さん達が太鼓や鐘を叩き、鈴木治夫さんという笙の職人で神様のような人が、それに乗せて笙をロングトーンで重ねたりした。

まーふつうに駅前でこういうことをやったら、まず間違いなく怒られてしまうのだが、「公職選挙法」というものがあるので、誰も邪魔することが出来ないのである。

安冨さんと、この選挙の音楽監督である片岡さんは、通常の選挙戦としての側面以外に、「公職選挙法を使ってどんな遊びが可能なのか」を試しているようなところがあったと思う。

そしてこのありえないようなユルい選挙活動(選挙事務所さえ存在しなかった!)の結果、最終的に負けはしたものの、27パーセント(!)の得票をしたことは驚愕に値する。


もしかしたら、今後各地で選挙のあり方に影響を与える可能性がある。

選挙カーで名前をがなりたて、お決まりのフレーズを繰り返すだけの選挙は、もう終わっていくかもしれない。誰もがそういうのに大なり小なりうんざりしているからだ。

安冨さんに多少の知名度があったとはいえ、馬と一緒にゆるゆる歩いて、即興音楽で遊んでいるだけでこれだけの得票が可能だとすれば、型どおりの選挙活動をするのが馬鹿らしくならないだろうか?

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マック赤坂や、外山恒一といった、一見ふざけているとしか思えないような候補者たちも、選挙のあり方を根本から見直すという、非常にラジカルで知的な試みをしていた人たちなのかもしれない。

そして安冨歩氏も、今回、こうした先駆者たちの後継者のひとりとして、政治の世界に非常に大きな功績を残した可能性がある。


私は一日しか選挙活動に参加しなかったが、それでもこの日、驚くほどいろいろマジカルな出来事が起こった。もう思い出すと笑いしか出てこない。一日でこれだから、七日間の選挙期間にはさぞかしいろいろな奇跡が起こったはずである。


七日間きびしい炎天下に選挙活動をなさった安冨さん、音楽監督の片岡祐介さん、「ウグイスお兄さん」しもだはるとさん、女優の木内みどりさん、他みなさま本当にお疲れさまでした。

いやー面白かった。


おまけ:いきなり応援演説を振られてびっくりするも、生来おしゃべりな気質であったため、12分もしゃべり続けてしまった私。






選挙カーからこっそり流したよ…。バッハのオルガン曲カヴァー集。



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