Easy + Nice レーベルのblog

アンビエント・ダブテクノなどを作る電子音楽家・Wakiによるブログ。 元々は運営している音楽レーベル「Easy + Nice」の情報発信のために立ち上げたものだが、最近は音楽制作全般や日記的なもの、哲学的なものが中心になってきている。

2018年08月

DSC_1698


先日、滋賀の佐川美術館で田中一村展を見に行ってきた。

じつは田中一村のことは全く知らなくて、行く前にはただ、最近おばさま達に人気の日本画家だ、というふうにだけ聞かされていた。

初めて行った佐川美術館は、佐川急便の屈強なお兄様方が、重い荷物を運びまくって建てた、ピラミッドのように自分には感じられた。

たぶん琵琶湖を模したのであろう、建物の周りにめぐらされた周到に設計されたプールや、地下の厳かで暗い展示場などを見ていると、よけいに何か、巨大な権力を持った王の墳墓のように思えてくるのであった。

さて、パンフレットやポスターに印刷されている田中一村という人の代表作は、熱帯の植物や鳥をデザイン的に配置したカラフルな日本画に見えて、どこかアンリ・ルソーのような素朴画派を思わせるところもあった。

このようなキャッチーな絵だったら、たしかに人気が出そうだな、などと軽い気持ちで展示を見始めたのだが、どうやら存命中には不遇な生涯を送った画家らしく、そのあたりの個人史を追いながら時代順に配置された膨大な作品を見ていくと、実は非常に重たい内容の展覧会だったということにだんだん気づかされる。



田中一村は7歳の頃にはもう、ほとんどプロなみの日本画を描いていた。

そして10代では新しい日本画の表現に挑戦し始めている。

いわゆる早熟な天才タイプだったようだ。

一番脂ののった30代くらいの作品群では、ひとつひとつに異常なほどの集中力が注ぎ込まれていて、見ているのが苦しいくらいだ。

「この作品で決める!」

「この作品で俺は俺の世界のすべてを変える!」

といったような、思いつめた心を、研ぎ澄まされた超絶技巧で仕上げていく感じが伝わってくる。

とにかく、異常にうまい。


しかし、実際には、彼は画家としてなかなか陽の目を見なかったようだ。

コンペティションでたびたび落選し、中央画壇(つまりメジャー)で自分の信じる世界観が認められないことに業を煮やした一村は、50歳で千葉から奄美大島に渡り、そこで大島紬の染色工をやりながら孤独に熱帯の花や鳥を描き始める。


そうして殆ど無名のまま、彼は死んでしまった。

しかし死後に再評価されて、このような豪奢な美術館にいま飾られているというわけである。

このような、悲劇的な彼の人生のストーリーも相まって、彼の絵は見る人の心に訴えかけてくるのだろう。


彼はまあ間違いなく天才だったと思う。しかし、若いころの彼に何か足りないものがあったとすれば、それは一種の「隙」というか、「ユーモア」みたいなものだったのではないだろうか。

うまくて完全に良く出来たものを見たときの、何か居心地の悪さみたいなものを、人は敏感に感じ取ってしまうことがある。

ちょうど同美術館に併設されていた平山郁夫のどこか焦点のぼやけた、ちょっと呑気な作品群と見比べていると、どうしてもそんなことを考えてしまう(彼はうまくやった)。


しかし晩年の一村の作品は、良くも悪くも力が抜けていて、親しみやすさのようなものを感じさせる。

だから今、彼の熱帯風景の絵は人気が出ているのじゃないかと思う。


しかし、芸術家はどうして、高みを目指すのだろうか?どうして、見果てぬ夢をみようとするのか。

彼のような天才でも、陽の目を見ないことはありうるわけである。

ふつうに考えれば、人生を全て無駄にするリスクをしょって、わずかな可能性に賭ける人たちの人生というのは、何か悪い病気にでもかかったような感じがある。



そのあと、今更ながら「ラ・ラ・ランド」という大ヒットした映画を見た。

これもまた、「見果てぬ夢の物語」だった。


このブログを読んでくれている人は、おそらく芸術が好きだったり、自分でも何かやっている人が多いんじゃないかと思う。

そして、殆どのアーティストは、確率的に言えば、夢を果たすことなく人生を終えていくわけである。


そういった、一見ばかげて見えるアーティストたちの、「人生を賭けた挑戦」に対するエールがこの映画だ。


彼らの救いはどこにあるのだろう?

売れないまま死んでいくアーティスト達の救いはどこにあるのか?


もちろん、ふつうに考えれば「自業自得」だ、馬鹿なんだ、ということになるだろう。


しかし、そうした世界中にいるだろう、馬鹿げた人生を送っているアーティストの一人として、私も田中一村の展覧会や「ラ・ラ・ランド」を他人事として見ることは出来ない。


われわれの救いはどこにあるのか?


自分の心の中には、一つの小さな答えがある。


それは、やり続けること自体に、非常に小さな救いがあるということだ。


「ラ・ラ・ランド」の中でも、主人公と同じように女優を目指した、叔母の言葉としてそれが語られている。

主人公は、女優を目指して、何度もオーディションを受けては落ち続ける。

「私はもうじゅうぶんに傷ついた」

彼女は言う。

それでも彼女は叔母がやったように、もう一度挑戦する。


私たちも、何度も挑戦して、そして失敗と落胆を繰り返す。

しかしそういう人生特有の、小さな救いもそこにはあり続けるのだ。



何度目の挑戦になるのか?音頭バンド・サンポーヨシの1stアルバムが8月22日リリース!






京都を中心に活動している音頭バンド、「サンポーヨシ」の1stアルバムが本日ついにリリースになりました!


EN013


「サンポーヨシ」は、滋賀を中心とした地域で踊られている「江州音頭(ごうしゅうおんど)」や、各地の音頭や昭和歌謡などを音頭化して演奏しています。様々な音楽的背景を持つメンバーたちが、江州音頭の古いビートを探り再構成する事で、「伝統的でもありながら現代的でもある」独特のスタイルを獲得しています。

member
現在のメンバー。左から、かさぶら(ヴォーカル・コーラス)、キヨシ(パーカッション)、わだこ(ヴォーカル)、潤(キーボード・キーボードベース)、waki(ミックス)、下村(ギター)


今回の1stアルバムでは、「江州音頭」と、秋田の「ドンパン節」、「ヤットン節」の3曲と、そのリミックスを加えた全8曲で構成。

Bandcampのページで試聴できますので、ぜひ一度お聴きになってみてください。

また、サンポーヨシの活動を応援する意味でも、ぜひアルバムの購入をご検討ください。


※サンポーヨシのCDは当面ライブ会場やBandcampページでの通販、京都を中心にいくつかのレコードショップで販売する予定です。

itunesのストア、BEATPORT、AMAZON MP3、などでのダウンロード販売は、購入ページが準備出来次第、またこちらで案内していきます。

※今回のCDはCDRではなく、原盤を使って工場でプレスされた音楽CDです。プレイヤーを選ばずお楽しみいただけます。

※CDの価格は、通販やレコード店等では1,500円(税抜)、ライブ等では1,000円(税抜)となっております。

サンポーヨシ WEBページ Facebook

私にとっては今世紀最大の衝撃的な事件のひとつだったアレクサンダー・ゾロトフ氏のインタビュー…。


そのあまりにも貴重な内容を、昨日震える手で掲載したのですが、予想外というか、案の定というか、やはりDTMクラスタのごく一部、もしくは日本にはまだまだ少ないSunVoxユーザーの一部にしか、刺さらなかったようです…。


というか、むしろ、ふつうの人にとっては、何のことかさっぱり分からなかった可能性さえある…。


しかし!私の興奮はまだ冷めやらない…ッ!

語り足りない!!


というわけで、殆どの読者を置いてきぼりにしているこの企画ですが、このインタビューで私が個人的に興味深かった点を、さらに掘り下げて解説していきたいと思います。



①まず、Alexander Zolotov氏は、思っていたよりもずっと若かった!

今までずっとメールのやりとりはしていたんですが、何となく勝手に「ヒゲぼうぼうの老人」みたいな人を想像していたんですね。

それというのも、多分自分の中で、Pavel Tiという人とごっちゃになっていたんだと思います。

pavel ti
   Pavel Ti 氏

もしかしたら、Pavel Ti 氏とAlexander Zolotov氏は、同一人物なんじゃないか…?

ぐらいに思っていました。


しかし、それは私の勘違いの可能性もあるので、わざわざ「Pavel Ti 氏はあなたの友人ですか?」という質問を入れたんですね。


結果的には、彼は全くの別人物で、Alexander Zolotov氏は、もっと若い人でした。



nr2_50per


エメリヤ・エンコ・ヒョードルを彷彿とさせるAlexander Zolotov氏。

強力な打撃技を持っていそうです。


ウラル工科大でプログラムを学んだが、実際にはそれよりずっと前に兄からプログラムの手ほどきを受けており、さらにその前にデモシーンに関わっていた…。

そして、このデモシーン時代が1995年だったことを考えると、

どう計算しても、彼はまだ30代くらいのはず。

若い!(後註:1983年生まれだそうです。)

nr1_50per

たしかに、写真からも、そんな感じが伺えます。

いやー…優秀な人っているもんだなあ…。



②SunVoxの開発は2006年に始まった。

ということは、開発を始めて12年くらいということです。

氏は、この間にものすごいペースで改良を続けています。

sunvox1

この画面は最も初期バージョンのもの。

sunvov193_2

12年を経た現在のもの(↑)と比べても、インターフェースが殆ど変わっていないことに気づくと思います。

骨太のコンセプトにしびれますね。

しかし実は、中身はものすごく進化しているんです。

やれることは随分増えているのに、基本的な使い勝手がほとんど変わっていない。

何度も力説したいですけど、こういうところ本当にみんな見習ってほしい!

バージョンアップの度に訳が分からなくなるソフトやめて欲しい!!!



③SunVoxの心臓部分はモジュラーシンセである

もともとSunVoxは、トラッカーとして開発されたわけではなく、ピアノロールで作ろうと思っていた、という話がありました。

そんなわけで、シーケンサー部分についてはわりと「必要だからつけた」っていうぐらいの感じですよね。

トラッカーの優位性については、氏も別のところで語ってはいましたけど。


あくまでも心臓部はモジュラーだと。

モジュラーでガンガン遊んでくれと。


そのへんが次に取り上げたい点、

④SunVoxの想定しているユーザー…音実験の好きな人、新しいことに挑戦する人


につながってきますね。


「自由に新しいことに挑戦してくれ!」と。

そこがこのソフトの一番楽しいところだと思います。

音楽制作ソフト界のマインクラフト的存在ですね…。

MAX/MSPほど難しくないのもありがたいです。



⑤DAWはMTRのメタファー

DAW全盛のこの時代に、彼がDAWについてどう考えているのか、非常に興味がありました。

彼の答えは、「DAWはMTRのメタファーである」というもの。

確かに…。

これは腑に落ちました。

昔の話になるけど、もともとは、MTRというものがあって、手弾きでレコーディングしたり、シーケンサーを同期させてシンセを走らせたりして、ひとつひとつトラックにオーバーダブさせていったりしたわけですよね。

DAWがそういった音楽制作の手法を、引き継いでいるツールなのは確かです。

われわれはDAW時代にどっぷり漬かりすぎているので、そもそもこれがどういうものなのか、考えてみもしなくなってしまっています。

しかし、彼の言葉を聞くと、「DAWというのは、音楽制作における一つのやり方に過ぎないんじゃないか」というふうにも思えてきます。

ユーロラックのモジュラーシンセのブームなんかは、そういう理知的というか、計画的なDAW手法に対する、ひとつのパンク的なアンチテーゼだったのかもしれませんね。



⑥どのプラットフォームでも動く理由…その方が楽しいから

これにはウケました。どのプラットフォームでも動くのは便利だけど、どうしてそこまで執拗にこだわるのかな?というのが知りたかったんですけど、

「その方が楽しいから」

もう何も言うことはありません…。




⑦完全に無償なわけではない

フリーでソフトやVSTを配布しているデベロッパーには、いつもこの質問をしたくなるんですよね。

「こんなにすごいものを、なぜ無償で配っているの?」

だって、ソフト開発ってものすごく大変だし、労力がかかるじゃないですか。そして人の役に立つものを作っているわけだし…。

Alexander Zolotov氏のスタンスは、非常に明快で、

「PCやMacなどではフリーで配布して宣伝、スマホやタブレットで売る」

というものでした。

まあ確かに、私も最初PCでしばらく使ってから、そのあとでAndroidスマホ上でも動かしたくなって購入しましたし。

この戦略は、意外と悪くないのかも…。




というわけで、SunVox愛好者以外にはあまり意味がない内容だったかもしれませんが、私のたぎる思いを語らせていただきました。

本当は、100回ぐらい同じことを繰り返して言いたい!

しかしそれは、ボケ老人になったときまで取っておくことにします。

このインタビューを読んで、少しでもSunVoxに興味を持ってもらえたら嬉しいです。







※来る8月22日、Easy + Nice から久々の新譜がリリース!今度は音頭だ!京都の音頭バンド・サンポーヨシによる1stアルバム!!リンク先(8月22日に解禁)

EN013

私wakiも現在メインで音楽制作に使っていて、密かに世界最高の制作ツールのひとつと考えている、ロシアの「SunVox」というソフトについては、ときどきこのブログでも取り上げてきましたが、今回なんと、開発者のアレクサンダー・ゾロトフ氏に直接メールでのインタビューをお願いしたところ、こころよく引き受けて下さいました!

nr1_50per

(サンクトペテルブルクからフィンランド湾を臨むアレクサンダー・ゾロトフ氏。私はこの写真を見るまで、もっと何となく老賢者のような風貌の方を想像していました!後註:1983年生まれだそうです。)



おそらくこのようなインタビューは、他に類がない、興味深い内容だと思われますので、ぜひともSunVoxユーザーや、デスクトップ・ミュージシャン、音楽ソフト関係者、SunVoxを愛する者や憎む者など全ての方に読んでいただければと思います。



以降インタビュー内容:


質問者:waki(以降W)
回答者:Alexander Zolotov氏(以降A)


W:まず最初に、あなたに最大級の感謝と敬意を表しておきたいと思います。というのも、あなたは「SunVox」のような、天才的で偉大なソフトウェアを作り上げた方だからです。私はSunVoxで音楽を作ることが大好きだし、また、日本の芸術大学で教育用のツールとして使ってもいます。

A:ありがとう!

W:あなたはエカテリンブルグに住んでいるんですよね。そこはどのような都市ですか?

A:はい、エカテリンブルグはウラル山脈にある、大きくて美しい街です。独特の雰囲気があり、変化に富んだ長い歴史を持っています。ご存知かもしれませんが、ロシア最後の皇帝が殺されたところです。また、ソヴィエト連邦時代、ロシア構成主義建築の主要なセンターのひとつがここにありました。そして、Polivoksシンセサイザーが開発された街でもあります。

W:あなたは、ご自分のことをどのような人間だと考えていますか?

A:好奇心旺盛なオタクで、アーティストで、音楽家です。今も昔もずっとそうです。

W:あなたが音楽家・エンジニアとして受けてきた教育や、キャリアについて教えてください。

A:私はウラル工科大学でシステムエンジニアの勉強をしました。しかし実はもっとずっと以前に、兄からプログラムの基礎を教えてもらっていました。もっと前の話になりますと、私は1995年に、初めてFastTracker2を使って、デモシーンの驚くべき世界に飛び込んでいました。

W:あなたはソフトウェアを仲間たちと作っているのですか?WarmPlace.ru(註:アレクサンダー・ゾロトフ氏のサイト)には何人の人がいるのですか。

A:私一人でやっています。

W:「NightRadio」というのはあなたのアーティストネームですよね。「Pavel Ti」はあなたの友人ですか?彼はYouTubeにSunVoxのすぐれた動画をたくさん上げていますよね。

A:はい、私の最初のニックネームは「Observer」というもので、2000年代の初めころに「NightRadio」に変えました。「Pavel Ti」 は私のオンライン上の友人で、SunVoxのすぐれた達人です。彼の音楽や動画はとても気に入っています!おすすめですよ!


「SunVoxについて」


W:SunVoxの、設計上・使用法・哲学に関する、主なコンセプトはどのようなものですか。どのようなユーザーを想定していますか。

A:SunVoxの基本的なコンセプトは、どこでも、どんな機器のどんなシステム上でも、殆ど同じように音楽を作ることができる能力を持っているということです。
高性能なコンピュータでも、アンドロイド2.3の古い携帯電話でも問題ありません。

私がまず最初に想定しているユーザーは、音で実験をするのが好きで、新しいことに挑戦することを恐れない人たちです。

W:近年では、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を使った音楽制作が主流になっていると思います。DAWとSunVoxとの違いはどこにあると思われますか?

A:通常、DAWというものは、MTR(マルチトラックレコーダー)のメタファーとして作られていると思います。しかしSunVoxの心臓部分はモジュラーシンセにあり、トラックという概念は、ここではそれほど重要ではなく、やや抽象的に扱われています。

W:それでは、SunVoxのDAWに対する優位性はどんなところにあるとお考えですか。

A:
1.まずはトラッカーの持っている能力です。たしかに、トラッカーは習得するまでに少し時間がかかりますが、それだけの価値があります。
トラッカーでは、いろいろ優れた効果を出すことが可能で、キーボード(註:コンピュータのキーボードのことだと思われる)さえあれば、他のタイプのシーケンサーよりも素早く入力できます。
これは一種のテキストエディタのようなもので、技術があれば非常に速く入力することが可能なのです。

2.SunVoxは微分音を扱うことが出来、シンセやサンプラーなどのすべてのモジュールでそれを行うことが出来ます。

3.SunVoxには無限に自動生成する音楽のためのツールが備わっています。


W:あなたがSunVoxの開発を始めたのはいつですか?SunVoxの歴史を教えてください。

A:これは、SunVoxの最初期のコンセプト図です(2006年3月)。

sunvox_concept

見てお分かりのように、もともとこれは、トラッカーとして計画されたものではありませんでした(笑)。

私が考えていたのは、ピアノロールを使ったシンプルな音楽エディタと、モジュラーシンセとを組み合わせたものでした。

プログラムコードの一部は、私がそれ以前に取り組んでいたプロジェクト、「PsyTexx」というMOD/XMタイプのトラッカーに基づいています。

SunVoxの最初のプロトタイプは、PalmOSとWindowsCE用に2007年に発表されました(下の写真をご覧下さい)。

sunvox2 sunvox1

SunVoxで作られた最初の曲は「Timeless」(2007)といいます。


W:何故あなたは今でも、SunVoxをバージョンアップし続けているのですか?また、各バージョン間の互換性については、どう考えていますか?

A:SunVoxは、私にとってはメインの楽器にあたるものです。私はいつも音楽的な知識や技術を向上させ続けているし、それにつれてプログラムも成長しています。

バージョンが新しくなっても、古いバージョンで作った曲データを正しくロードすることができます。しかし、逆に新しいバージョンで作った曲を古いものでロードした場合には、いくつかのデータが失われます。

SunVoxは異なるプラットフォーム間で、大きな違いなく動かすことが出来ます。だから、他の音楽アプリのように、コンピュータと携帯との間で分け隔てする必要がないのです。

W:ときおり私は、他のすぐれたソフトウェアが、バージョンアップを繰り返しているうちに、新しい特長が備わるけれども、元々持っていた良さや、動作の軽さを失ってしまって、がっかりすることがあります。
このような現象をあなたはどのように思いますか?SunVoxの最新バージョンは、ロースペックなマシンでもまだ動きますか?

A:それは本当に、プログラムやプラットフォームによりますね。私はSunVoxが古いデバイスで動かなくなるようなことはしたくないです。

しかし時々そういうことは起こります。様々な理由からです。たとえば、PalmOSのバージョンでは、SunVoxはもう、そのプラットフォームの限界を越えてしまっています。

また、その逆のことも起こりえます。SunVoxはまだとても古いWindowsCEのマシンでも動きます。なぜでしょうか?それはこのシステム上で、開発を続けやすいからです。また、私がLinux上で動くWinCEコンパイラを持っているからでもあります。

W:私は、サンプリングの波形データについて、曲の中に相対パスで記録するのではなく、波形ごとプロジェクトデータの中にコンパイルしてしまうやり方は、とても素晴らしいと思います。これは意図的にやっているのですか。

A:これは古いトラッカー(MOD, S3M, XM, IT)から続いている良き伝統です。私は曲データの中に全てが含まれているのが好きなのです。

W:あなたは、SunVoxのような非常に優れたソフトウェアを、なぜ無償で人々に配布しているのですか。

A:すべてのバージョンが無料というわけではありません。iOSとAndroidでは有料です。それは単純に、このマーケットが、ソフトウェアを売るのに一番便利だからです。

他のプラットフォームは、ソフトを宣伝するのに都合が良いです。私は少なくともしばらくの間、この方針を変えるつもりはありません。

W:世界中でどれくらいの数の人々がSunVoxを使っているとお考えですか?世界の中では、どのエリアで、より多く使われているでしょうか?(たとえばロシアとか…)

A:正確なユーザーの数は分かりません。しかしおおよその配布状況では、アメリカ合衆国(30%未満)、ロシア、UK、ドイツ・・・などの順になっています。

W:あなたの好きなSunVoxのアーティストを教えてください。

A:幸運なことに、今は沢山の非常にすぐれたSunVoxアーティストたちが存在しています。以下が私のお気に入りです。

Echo's Dream Diary & mk7
Ayoshutduff
Numrah
Transient
HEAVY SYSTEMS, Inc
Kiberaver
Pavel Ti
BLUE NAVI
Game Jam!
SolarLune

W:SunVoxでトラッカーのシステムを採用した理由は何ですか。他にお好きなトラッカーのソフトはありますか。

A:個人的には、音楽を作るうえで、トラッカーには有利な点があると考えています。先ほど書いたように、テキストエディタでタイピングするのに似ているからです。

私は今までいろいろなトラッカーに触れてきました。FastTracker, Scream Tracker,
Impulse Tracker, Buzz, Skale Tracker, OpenMPT, Renoise。

どれも好きですが、どれにも一長一短あります。だから私は、自分自身で作ることにしたのです(笑)。

W:どうしてSunVoxをこれほど多くのプラットフォームで動くようにしようとしたのですか?そして技術的には、どうやってそれが可能になるのですか。

A:それは、その方が楽しいからです(笑)。私はフレキシブルで万能なシステムが好きなのです。



「最新のアップデート(1.9.4)について」



W:最新のバージョン1.9.4で、最も際立った特徴はスペクトログラムだと思いますが、他に強調しておきたいところはありますか?

A:
1.「MultiCtl」モジュールの新しいコントローラ、「Response」によって、すべてのコントローラの値を、簡単になめらかに変化させることが出来ます。これは使いやすさという点で大きな進化だと思います。

2.コマンドエフェクトの24番から29番は、毎回違った音を発生させるもので、予想できない音楽を作ることができます。


W:「Distortion」モジュールのタイプが、( lim / sat )から( clipping / foldback / foldback2 / foldback3 / overflow )へと増えました。

ということはまず、「lim」と「clipping」は同じもので、同様に「sat」と「foldback」が同じものだと考えてよいですか?

A:その通りです。

W:それでは、clipping / foldback / foldback2 / foldback3 / overflowのそれぞれのタイプの効果の違いを説明していただけますか?

A:これは写真を見ていただいた方が分かりやすいでしょう。

「clipping」
dist0

「foldback」
dist1

「foldback2」
dist2

「foldback3」
dist3

「overflow」
dist4



W:「Analog generator」には新たに7つのノイズ波形が加わりました。なぜこれらのノイズを加えようと思ったのですか?これまであったノイズ波形は、サンプリングによるものだったのですか。

A:はい、元からあった「ノイズ」波形は、32kのランダムなサンプルのループでした。新しいタイプのものは、様々なカラーの、無限に生成する本物のノイズ波形です。
それぞれのカラーのノイズは、違ったように知覚されます。(参照:Wikipedia) 



「未来の計画について」


W:SunVoxや、WarmPlace.ruの他のソフトウェアについて、新たな開発の予定はありますか?もしくはあなたの個人的な、生活上のプランはありますか(新しい家を買うとか、飲んだことない紅茶を試してみるとか、どこか旅行するとか、子供を持ってみるとか…)

A:SunVoxをさらに発展させる計画はありますし、他の音楽・サウンド・グラフィックのアプリについても同様です。また、ハードウェアの計画もあります。あなたが先ほどリストに上げた、個人的な計画以外はすべてやろうと思っています(笑)。

やることは沢山ありますが、時間は限られています。しかし、やれる限りのことはしようと思います。

Alexander Zolotov (NightRadio)

~インタビューここまで






nr2_50per

*ロシアの格闘家を思わせる容貌の、アレクサンダー・ゾロトフ氏。エカテリンブルクでVirtual ANSのプレゼンをしているところだそうです。

ゾロトフさん、貴重な情報を教えてくださって、ありがとうございました!


SunVoxのWiNOWSとMacOSバージョンなどは、上記 WarmPlace.ru から無料で提供されています。iOS版はapp store、Android版はGoogle Playでそれぞれ購入することが出来ます。





不肖wakiのSunVoxを使った作品「russian love」をここにこっそりと置いておきます。



Easy+Niceレーベルから久々のリリースになります。

京都を中心に活動している音頭バンド、「サンポーヨシ」の1stアルバムです。


EN013

「サンポーヨシ」は、もともとは京都の左京地区の盆踊り大会を復活させる地域活動の中で、2015年に「わだことサンポーヨシ」として、和田史子・鈴木潤・スズキキヨシ・長谷川健一によって結成されました。

その後の数年で、何人かのメンバー交代を行いながら、各地の盆踊り大会やライブハウス、クラブなどで演奏を重ねてきました。

「サンポーヨシ」は、滋賀を中心とした地域で踊られている「江州音頭(ごうしゅうおんど)」を中心に演奏していますが、様々な背景を持つメンバーたちが、江州音頭の古いビートを探り再構成する事で、「伝統的でもありながら現代的でもある」独特のスタイルを獲得しています。

member
現在のメンバー。左から、かさぶら(ヴォーカル・コーラス)、キヨシ(パーカッション)、わだこ(ヴォーカル)、潤(キーボード・キーボードベース)、waki(ミックス)、下村(ギター)


今回の1stアルバムでは、「江州音頭」と、秋田の「ドンパン節」、「ヤットン節」の3曲と、そのリミックスを加えた全8曲で構成されています。

最近、音頭や民謡、昭和歌謡など、古い邦楽に注目が集まっている機運が感じられますが、そのようなタイミングで「サンポーヨシ」の最初のアルバムが発表できることは有難いことだと思います。

8月22日のリリース日以降は、Bandcampのページでも全曲試聴できるようにしますので、ぜひ一度お聴きください。

サンポーヨシの活動を応援する意味でも、ぜひアルバムの購入をご検討いただければ、と思います。


※サンポーヨシのCDは当面ライブ会場やBandcampページでの通販、京都を中心にいくつかのレコードショップでのみ販売する予定です。ダウンロード販売に関しては、itunesのストア、BEATPORT、AMAZON MP3、Bandcampなどで行います。

※今回のCDはCDRではなく、原盤を使って工場でプレスされた音楽CDです。プレイヤーを選ばずお楽しみいただけます。

※CDの価格は、通販やレコード店等では1,500円(税抜)、ライブ等では1,000円(税抜)となっております。

サンポーヨシ WEBページ Facebook

↑このページのトップヘ