最近、名付けようのないもの、ジャンルに当てはまらないもの、未知なものがまた聴きたくなって、それでいてもちろん、聴き心地の良いものでなくてはならないとすると、それは何なのかと思って逡巡していた。
最初のうちは、ただ何を聴いてもあまり面白くない、と言う状態が続いて、それはもしかしたら軽い鬱みたいなものかと思って、こんなご時世ではそれも無理のないことだと納得しかけていたのだが、次第にこの「面白くない」と感じる原因が何なのかわかり始めた。
それは、自分が音楽を聴くとき、どうしてもジャンル的に聴いてしまっている、ということだった。
クラシックだったり、ジャズだったり、ヒップホップだったり、トランスだったり、何を聴くにせよあらかじめジャンルとしてまずカテゴライズしてしまっていて、それを聴いている、ということに気がついたのである(作家別に聴くことも含む)。
多分、真にエクレクティックで良質なラジオのようなものがあれば良かったのだろう。
次に何がかかるのか分からず、それでいて毎回新鮮な驚きがあるような音楽の連なり、どうやらそういうものを自分は欲しているようだった。
おそらく最初にEasy + Nice レーベルを立ち上げたとき、そういうものを目指して発足したはずである。
このところちょっと、自分の頭の中がジャンル的になりすぎていたようだ。
そうしてまたSoundcloudとかBandcampとかを彷徨っているうちに、今自分が求めているものがだんだん分かってきて、それは奇妙なことだけど、乱暴な言い方をすればやはり「アンビエント」と言えるようなものなのだった。
「アンビエント」という言葉でまたジャンル的な発想になってしまわないよう気をつけなければならないが、まあ消極的な意味での「アンビエント」、とにかく言葉で何か言わなければならないとすればこの言葉が一番近い気がする。
この場合の「アンビエント」は、自分にとってはジャンルから最も離れた何か、カテゴライズできないような音の連なり、しかしそれでいて不快でない状態を表すものとして機能している。
「ノイズ」という言葉もかなり自分の求めるところに近いものを指し示しているのだが、自分にとってはこの言葉は、残念ながらややジャンル的な印象が強くなってしまっている。
「アンビエント」の方がまだややジャンルの呪縛から逃れられている気がする。もちろんこれは自分にとってそうだというだけのことだが。
言葉なんて何も必要ない、ただ音楽を聴けばいい、というのは本当にそうだと思うんだけど、街中を歩くときに信号や標識を意識しなくては歩けないように、自分が必要なものを探すときに何か懐中電灯のようなもの、指針のようなもの、杖のようなものが必要になるときがある。
「アンビエント」は自分にとってはそういうツールのようなもので、ある種の軽いマントラのようなものだ。
だがもしそれを大真面目に捉えてしまっては多分、また呪縛になってしまう。
あくまでも、未知なものに出会うための一つの指標、転ばぬ先の杖のようなもの、大雑把で目の荒い網、そこらへんで拾った木の枝のようなものでなくてはならない。
月を指す指に囚われてはいけない、とよく言うけれど、言葉とはまさにそういうもので、大事なのはもちろん自分が必要とするものに辿り着くことだ。